今回取り上げるのは、聖堂に入れた古い窓ガラスについてです。
建築の話がまだまだ煮詰まらない当時から、建築に携わる色々な方に古い教会を見てもらいました。見てもらった人たちは、皆、「この窓ガラスは、古い教会の建築当時のガラスですよね。このデザインのガラスは見たことがありません、これを新しい建物に生かしたいですね!」と口々に言われました。
この話を聞くたびに私は、「新しい建築に使えるガラスは何枚あるのか?」「新しい建物の窓の数を古い窓ガラスの数に合わせなければならないのは本末転倒ではないか!」「聖堂の違うガラスがはまっている窓は、昔、近所の子がキャッチボールで割っちゃったんだよな・・・。あれが割れずに残っていればよかったのに・・・。」「建築が始まって加工中に割れたらどうする?」などと様々に考えをめぐらせておりました。
最終的に設計を依頼した清さんも「このガラスは新しい建物に使いましょう!」と言われて、左右の高窓、左右と後部の横窓、祭壇の突き当たり左右固定窓に、このガラスを使うことになりました。祭壇上部の壁を十字架型に貫いて、そこにもこのガラスをはめることになったのですが、古い教会で使っていたガラスでは長さが足りないため、十字架の交点から下に伸びた一番長い一辺は二分割で仕切りを入れて十字架の形にすることになりました。
話が具体化していくと、古いガラスを切って使うだけでは強度が足りないため、古いガラスに樹脂を張り、もう一枚新しい透明ガラスを張り合わせ「合わせガラス」にして窓に嵌め込むことになりました。
建築工事の最中に、心配していたことが現実になってしまいました。ガラスの加工過程で、古いガラスが何枚か割れてしまったのです。今、その原因を冷静に考えてみると、古いガラスは作られた当時の技術が現在より劣っていて、多少の歪みがあったのでしょう。それに今の歪みがない新しいガラスを無理に貼り付けたから、割れたのだと思いますが、当時は「残りは何枚?」「足りなかったらどうなるの?」などと、本当に心配の種がつきることはありませんでした。
責任を感じた清さんは、このガラスを再度調べなおし、少し時間はかかりましたけれども、同じデザインの新しいガラスを見つけてきてくれ、問題は一挙に解決したのでした。
そして、これにより、十字架の一番長い一辺にこの新しいガラスを使用することによって、ガラスを二分割することなく、長い一枚ガラスをはめる事が出来たのは、怪我の巧名というべきでしょうか?
今でも聖堂で正面の十字架を見るたびに、当時のハラハラドキドキした一部始終が、つい昨日のことのように、頭をよぎるのです。
(静岡聖ペテロ教会信徒 白石伸人)
(※この文章は、2007年6月に教会報に掲載されたものです。)
2005年12月に静岡聖ペテロ教会の聖堂・会館、及び牧師館の建築が完了しました。新しい建物の裏話や古い教会には無かった機能などの話を教会報に連載したのがこのコーナーです。新しい教会をより身近なものとして使用して頂けるいいなぁという気持ちで当初数回の予定でスタートし、2年間に渡り、20回連載しました。原文に訂正加筆を加えながら、ここに連載していきます。
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